日本薬理学雑誌
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ミニ総説号 「薬物依存研究の新展開」
モルヒネ依存およびその退薬症候の発現機序
—遺伝子変異マウスを用いて—
野田 幸裕間宮 隆吉鍋島 俊隆
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2001 年 117 巻 1 号 p. 21-26

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抄録

薬物依存の形成機序を行動薬理学的に解析するため, 脳内カテコールアミン合成系および細胞内情報伝達系の遺伝子を改変させたマウスにおいてモルヒネ依存が形成されるかどうかを調べた.条件づけ場所嗜好性試験を用いてモルヒネの報酬効果(精神依存)を調べたところ, 野生型マウスにおいてモルヒネ(10mg/kg,s.c.)は, place preferenceを惹起した.一方, モルヒネ(10mg/kg,s.c.)を1日2回, 5日間連続投与した野生型マウスにナロキソン(5mg/kg,i.p.)を投与すると, 退薬症候(身体依存)が顕著に発現し, 視床·視床下部におけるcyclic AMP(cAMP)含量はコントロールマウスに比べ有意に増加していた.しかし, チロシン水酸化酵素(TH)およびcAMPresponse element結合タンパク(CREB)結合タンパク(CBP)遺伝子変異マウスにおいて, モルヒネは, place preferenceを発現しなかった.また, TH遺伝子変異マウスおよびCBP遺伝子変異マウスあるいはphosphodiesterase IV阻害薬のロリプラムとモルヒネを5日間併用投与したマウスではナロキソン誘発退薬症候の発現は減少した.この時, CBP遺伝子変異マウスの視床·視床下部におけるcAMP含量は増加していたが, TH遺伝子変異マウスおよびロリプラム併用投与マウスでは増加していなかった.以上の結果から, モルヒネによる精神依存および身体依存の形成には, 脳内カテコールアミンおよびcAMPが関与する情報伝達系が重要な役割を果たしていることが示唆される.

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