日本歯科保存学雑誌
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症例報告
根尖性歯周炎に起因した放射線性下顎骨骨髄炎に対して保存的治療を行い良好な経過を得た一症例
工藤 値英子水川 展吉中川 沙紀柳 文修江口 元治松香 芳三吉岡 裕也高柴 正悟
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2015 年 58 巻 5 号 p. 425-434

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抄録

 目的 : 放射線が照射された顎骨では, 骨の細胞活性能が低下し, 細菌感染により骨髄炎を発症しやすい. 今回, 下咽頭癌に対する放射線治療の既往がある患者に発症した46の根尖性歯周炎に起因する放射線性下顎骨骨髄炎に対して, 抗菌薬投与と感染根管治療の併用によって保存的治療を行い, 良好な経過を得た症例について報告し, その対処法を考察する.
 症例の概要 : 患者は58歳男性. 下咽頭癌に対して, 岡山大学病院耳鼻咽喉科と放射線科にて2006年11月から2007年1月まで化学放射線療法を受けた. 2010年5月初旬に右側下顎部に疼痛を自覚していたところ, 定期検査時の18F-fluoro-deoxyglucose positron emission tomography-computed tomography (FDG-PET/CT) 検査にて, 下顎右側にFDG異常集積が認められた. 当院歯周科および口腔外科にて, 46の根尖性歯周炎に起因する放射線性下顎骨骨髄炎と診断された. 口腔外科にて抗菌薬および鎮痛剤の投与が継続され, 同科からの依頼により当科にて46の根管治療を継続した.
 治療経過 : 46に対して感染根管治療を継続するも, 右側下顎部の自発痛が続き, 弓倉症状による強い打診痛の範囲が46から前方へと波及した. 下顎骨に放射線治療の既往があるため, 下顎骨骨髄の減圧を目的とした外科処置を行うことができなかった. そこで, 外科処置に代わる減圧手段として, MR画像上における浮腫性変化を示す範囲内の全歯に対して根管開放を行い, 並行して耳鼻咽喉科での抗癌剤中止に加えて口腔外科での抗菌薬投与を継続した. さらに, これらの歯を咬合させないよう安静に維持することで, 急性症状が軽快して骨髄炎を沈静化させることができた. その後から現在まで, 下顎部は良好に経過している.
 考察および結論 : 46の根尖性歯周炎に起因する放射線性下顎骨骨髄炎に対して, 抗菌薬投与と感染根管治療の併用によって良好な経過を得ることができた. 顎骨への放射線照射を行う患者において, 放射線治療前に医科歯科連携下による歯性感染巣除去を行い, 顎骨骨髄炎を予防することが重要である.

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