2012 年 142 巻 p. 95-118
本稿では消滅の危機に瀕している南琉球宮古語大神方言の副動詞体系を記述する。大神方言の副動詞は一つのカテゴリーを成しているが,不確かな概念の「定形性」や「従属」による「副動詞」の従来の定義にとって問題であり,その定義の再検討が必要である。
副動詞のような「非言いきり形」が主要部にたつ節が主節として機能する脱従属化現象に注目する。特に通言語的にめずらしいと言われた継起などを表す副動詞が主節において過去形として使われる現象に焦点を当てる。時制を表す動詞語形の少なさがこの現象の要因であると提案されたことがあるが,大神方言ではその仮説が成り立たず,要因が談話様式に求められる。
継起などを表す副動詞が独立した過去形へ変化するのはそれほどめずらしい現象ではなく,通言語的な進化の経路であることを示す。