2023 年 64 巻 7 号 p. 654-660
凝固第V因子(FV)は,向凝固と抗凝固の相反する機能を有する。FV遺伝子変異にて発症する先天性FV欠乏・異常症は,FVが向凝固機能を担うため一般的には出血傾向を呈する。一方,活性化プロテインC(APC)抵抗性として発見されたFV-R506Q(FVLeiden)変異は,有名な血栓性素因の一つである。これまでFVLeidenを含むFV分子異常症に起因する血栓症は日本では存在しないとされていた。しかし,我々は本邦初のFV分子異常症による血栓症を呈した若年症例を報告した。本例はFVの点変異FV-W1920R(FVNara)を有しており,FV-R506Qと異なるAPC抵抗性の機序であった。本邦でも未発見のFV関連血栓症例が存在する可能性がある。我々はFV関連の抗凝固機能のさらなる詳細な解析を行い,FV異常症による血栓症の病態解明を行った。さらに凝固波形解析を応用し,FV異常症の迅速鑑別が可能な新規検査法の開発にも成功した。近年,他のFV関連血栓症の報告もされており,今後,FV関連血栓素因のさらなる解明に期待したい。