2018 年 59 巻 11 号 p. 2441-2448
造血幹細胞は様々なストレスに曝されているが,食習慣が造血幹細胞に及ぼす影響についてほとんど理解されていない。我々は,RAS-MAPK症候群の原因遺伝子であるSpred1が高脂肪食ストレス下における造血幹細胞の恒常性を維持するために必須であることを見出した。普通食摂取のSpred1欠損マウスでは血液異常を示さないが,造血幹細胞の自己複製能はRhoキナーゼ活性に依存して亢進し,加齢やLPS刺激に対して抵抗性を示した。しかし高脂肪食摂取下では造血幹細胞におけるERKの異常活性と機能低下,重度の貧血,致死性の骨髄増殖性腫瘍様病態を示した。この血液異常は,抗生剤による腸内の除菌によって改善されたことから,高脂肪食摂取による腸内細菌叢変化の関与が示唆された。このように高脂肪食摂取によるストレスは,Spred1を介した造血幹細胞制御機構に作用し,造血幹細胞の恒常性維持に影響することが明らかとなった。