2011 年 24 巻 3 号 p. 180-188
本論文では,燃料としての需要が見込まれる木質ペレット(ペレット)の販売原価を,森林簿に記載されている森林情報に基づいたシミュレーションによって求める方法を開発した。シミュレーターは,地理情報システム(GIS)をプラットホームとしており,林業生産プロセスからペレット利用プロセスまでの一連のプロセスを対象として開発された。シミュレーションの前提として,森林から伐採した林分は,建材などの材として利用せずに,全量をペレットに加工して直接燃焼機器の燃料として利用することとした。これにより,木材需要規模の制約や外材の価格変動などの外的因子によって原材料価格が変動することを回避可能となり,木質バイオマスの大規模活用の可能性を検討することができる。本シミュレーターが必要とするGISデータは,森林簿の森林情報と森林基本図にある林道等の路網情報である。森林簿は,森林法に基づいて整備されているため,日本の森林の大部分に備わっている。路網に関する情報は,国土地理院発行の25,000分の1ベースの地形図および5,000分の1の森林基本図が利用可能である。原単位のデフォルト値,コストや効率のペレット生産規模依存性の解析式およびエネルギー需要構造の情報は,前報で調査した値および式を内蔵させた。これらによって,シミュレーターの汎用性を高めた。ペレットの利活用は地球温暖化抑制に繋がるため,日本におけるペレットの販売原価を算出する方法を検討し,これに基づいたシミュレーターを開発することは意義深い。皆伐材または間伐材を原料木材として生産してペレットを製造・利用する工程について,林業生産からペレット利用までの一連のプロセスを対象として,GIS上の個別の森林情報に基づきペレット製造地と需要地までの配送を考慮してペレット販売原価を解析する方法を開発した例はない。