日本公衆衛生雑誌
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3か月児健診時における母親の経済不安と気分および子どもとの生活への思いとの関連:乳児健診データを用いた横断研究
緒方 靖恵上原 里程横山 美江
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キーワード: 経済状態, 貧困, , 育児, 孤独, 不安
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2024 年 71 巻 1 号 p. 33-40

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抄録

目的 出生人口に基づいた3か月児健康診査(以下,3か月児健診)のデータ分析から,経済不安と乳児を育てる母親の心理的側面との関連を明らかにし,経済不安を抱える家庭の支援を検討する基礎資料とする。

方法 対象地域は大都市圏であるA市にある1地域である。2017年11月から2019年10月までに1歳6か月児健康診査を受診した1,013人を対象に母親への調査を実施した。調査票に回答し,かつ健診データの利用について同意が得られた908人の3か月児健診データと母親への調査データの統合データを分析対象とした。このうち,問診票記入者が母親以外の者および多胎児を除外し,847人のデータを分析した(有効回答率93.3%)。

 分析に使用した変数は,母親の心理的側面として3か月児健診時の母親の気分,母親の子どもとの生活への思いを目的変数とした。説明変数は3か月児健診時の母親の経済不安の有無であり,児の性別,児の出生順位,母親の相談者の有無,最終学歴で調整したロジスティック回帰分析を実施した。

結果 経済不安のある母親は60人(7.1%)であった。3か月児健診時の母親の気分では,不安を感じると回答した母親が122人(14.4%)と最も多く,次いで孤独を感じると回答した母親が36人(4.3%)であった。子どもとの生活への思いでは,776人(91.6%)の母親が楽しいと回答し,567(66.9%)の母親が親になってよかったと回答した。一方,イライラすると回答した母親は157人(18.5%)であり,自分の時間がなく苦痛と回答した母親も75人(8.9%)いた。

 経済不安がある母親は経済不安がない母親と比べて,孤独を感じる者のオッズ比が5.59(95%信頼区間,2.49–12.55)であり,不安を感じる者のオッズ比は4.77(2.67–8.54),子どもとの生活にイライラする者のオッズ比は2.70(1.50–4.86)といずれも有意に高かった。

結論 3か月児健診時の母親において経済不安があることは,孤独を感じる,不安を感じる,子どもとの生活にイライラするという心理状態と関連していた。経済不安がある母親が少しでも安定した状態で育児できるよう福祉との連携など問題解決に向けた支援が必要であることが示唆された。

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