日本公衆衛生雑誌
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原著
高齢者の機能的健康度の評価に基づく要介護発生リスク予測モデルおよびリスクチャート(試作版)の開発
野藤 悠阿部 巧清野 諭横山 友里天野 秀紀村山 洋史吉田 由佳新開 省二藤原 佳典北村 明彦
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2022 年 69 巻 1 号 p. 26-36

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抄録

目的 性,年齢および機能的健康度から,3年間の要介護認定の発生確率を予測するモデルを構築し,その性能を評価した。さらに,高齢者本人の気づきと行動変容を促すことで介護予防の効率化を図ることができるよう,発生確率を視覚化した要介護認定リスクチャートを開発した。

方法 兵庫県養父市在住の要介護認定を受けていない高齢者を対象に2012年に実施した郵送調査で,基本チェックリスト(KCL)に回答した5,960人および介護予防チェックリスト(KYCL)に回答した4,448人を分析対象とした。ベースライン時点から3年間の要介護認定の発生を目的変数とし,年齢に加え,1)うつの項目を除いたKCL 20項目の得点,2)KYCL得点のいずれかを説明変数とするロジスティック回帰分析を男女ごとに行い,その結果に基づき要介護認定の発生確率を計算した。モデルの較正の評価にはHosmer-Lemeshow (HL)検定を,識別能の評価にはarea under the receiver operating characteristic curve (AUC)を,内的妥当性の評価には5分割交差検証により算出したAUCの平均値を用いた。

結果 KCLの分析対象者では,男性207人(8.2%),女性390人(11.3%),KYCLの分析対象者では,男性128人(6.6%),女性256人(10.2%)が要介護認定を受けた。KCLまたはKYCLを含むモデルのHLのP値は,それぞれ男性0.26, 0.44,女性0.75, 0.20であり,AUCは男性0.86, 0.86,女性0.83, 0.85,5分割交差検証により算出したAUCの平均値は男性0.86, 0.85,女性0.83, 0.85であった。算出した発生確率に基づいて,縦軸に年齢階級,横軸にKCLまたはKYCL得点を配置し,交点のマス目を発生確率に応じて6段階に色分けしたリスクチャートを作成した。

結論 男女共にHLのP値は有意水準(0.05)を上回っていたこと,AUCおよびAUCの平均値のいずれも0.80以上であったことから,本研究で構築したモデルは,較正,識別能,内的妥当性のいずれの面でも優良であることが示された。本リスクチャートは,簡便に使用することができることから,市区町村における介護予防事業を効率的に推進するためのツールの一つになることが期待される。今後,全国各地で広く使用できるよう,大規模なサンプルによる検討や外的妥当性の検証が必要である。

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