2022 年 42 巻 5 号 p. 595-598
症例は55歳,男性。木工作業中に木片が飛散し,約8mm径の木片が右下腹部に刺さり近医を受診した。理学所見でショック症状を呈していたため当院救命救急センターに緊急搬送となった。初期輸液により,来院時にはバイタルは安定していたが,腹部CTで消化管穿孔および右外腸骨動静脈損傷を疑い緊急手術の方針とした。木片は小腸を損傷し後腹膜から右外腸骨静脈を貫通しており外腸骨静脈より出血していた。後腹膜を開放し外腸骨静脈を露出し,静脈を圧迫し出血のコントロールを行い外腸骨静脈を連続縫合で修復した。術後に右下肢に軽度の浮腫を認め造影CTでは損傷部に一致して血栓を認めたため抗凝固療法を開始した。血栓の増悪なく退院となった。外傷性の腸骨静脈損傷は比較的まれであるが,適切な対応が要求される致死的な病態である。迅速な視野の確保と一時止血,静脈の修復法,術後管理について習得しておくことが必要である。