環境科学会誌
Online ISSN : 1884-5029
Print ISSN : 0915-0048
ISSN-L : 0915-0048
一般論文
産業・業務部門における低炭素政策波及の可能性と促進・阻害要因
馬場 健司田頭 直人金 振
著者情報
ジャーナル フリー

2012 年 25 巻 2 号 p. 73-86

詳細
抄録

一定規模以上の事業所に対して温室効果ガス削減計画書と報告書の提出を義務付ける「地球温暖化対策事業所計画書制度」は,産業・業務部門における低炭素政策として東京都が創出し,多くの地方自治体で導入されつつある。気候変動問題は,多くの自治体間で政策が波及することにより実効性が高まる。そこで本研究は,同制度を題材として,実効性確保措置(どのような義務や制裁が規定されているのか)と波及性(どの程度類似の制度が他の多くの自治体において導入されているのか)との関係について明らかにする。インタビュー調査や質問紙調査を実施し,行政法学や政策過程論的視点より分析した結果,得られた知見は以下のとおりである。第1に,制度設計と運用に影響を及ぼしている要因として,制度の参照元と,導入プロセスにおいて影響を及ぼしたアクター,CO2排出量の産業部門構成比が挙げられる。具体的には,都制度を参照した自治体の制度,導入プロセスにおいて首長,委員会や審議会等,議会が影響した自治体の制度は,排出削減目標の設定方法をはじめとする実効性確保措置を相対的に厳しく規定するもの,或いは行政リソースをより必要とするものとなっている。第2に,CO2排出量の産業部門構成比が高い自治体ほど,実効性確保措置をより厳しく規定しないものの,立入調査を実施して事業所の省エネ,環境配慮に係る情報を収集しようとしている。第3に,都と同様に,現時点で可能な制度を導入した上で,運用状況を見ながら後に段階的に実効性を高めていくという方法を採っている自治体は少数である。第4に,当該制度は,基本的には届出制度であり,制裁措置や立入調査を執行してまで厳格に運用する自治体は少ない現状がある。これには,そもそも限られた行政リソースしか投入できない状況などが背景にあると考えられる。第5に,その当然の帰結として,多くの自治体は総量削減義務の導入を見据えておらず,広域連合や類似自治体など他者動向の様子見も多い。

著者関連情報
© 2012 社団法人 環境科学会
次の記事
feedback
Top