地質調査研究報告
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有珠火山2000年噴火でのマグマ水蒸気爆発と火砕流到達域予測
山元 孝広
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2001 年 52 巻 4-5 号 p. 231-239

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抄録

有珠火山2000年噴火は,3月31日に北西山麓で起きたマグマ水蒸気爆発で始まった.この最初の噴火では高度が3200mに達する暗灰色の噴煙が上昇し,デイサイト軽石を含んだ約13万トンの火砕物が放出されている.一般にマグマ水蒸気爆発は破砕されたマグマと地下水とのダイナミックな混合により発生する現象で,その混合物が噴煙として浮力を得て安定に上昇するためには,水/マグマ混合質量比が0.2以下でなければならない.3月31日噴火はガス成分に富むマグマ頭部からもたらされたもので,減圧によるマグマの発泡破砕が混合比0.2以下の効果的なマグマ-水接触反応を起こした可能性が大きい.4月1日以降は次第に噴火が穏やかになるとともに,デイサイトマグマの貫入による北西山麓の隆起が顕著になってきた.4月上旬では噴煙高度が1,000m以下の黒色のプリューム状の噴煙やコックステイルジェットの活動を火口位置を移動させながら間欠的に繰り返していた.また,この時期の噴出物には本質物がほとんど含まれていない.地下浅所に貫入してきたマグマの表面は安定化しており,効果的なマグマと水との混合が起きにくくなっていた.湿った火砕物が弾道放出されるコックステイルジェット噴火は,マグマ水蒸気爆発なら水/マグマの混合比が0.4よりも大きい領域,水蒸気爆発なら水/母岩の混合比が小さい領域での噴火に相当する. 今回の噴火が始まると北西山麓に新たに形成された火口群でのマグマ水蒸気爆発に伴う火砕流の発生が懸念され,その到達範囲予測図をエネルギーコーンモデルを用いて作成した.マグマ水蒸気爆発では水/マグマ混合質量比が0.2~0.4の領域では,混合物の温度が低く不安定な噴煙がつくられやすい.モデルでは火砕流の動摩擦係数を小規模火砕流の平均値である0.25に固定している.一方,噴煙柱崩壊高度については地下水と反応したマグマの質量の関数として別に求めた.3月31日噴火の噴出量では,もしこの噴煙が崩壊したとすると火口から1~2km流走する火砕流を生じた可能性があった.

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© 2001 産業技術総合研究所 地質調査総合センター
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