日本泌尿器科學會雑誌
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男性インポテンスに関する研究
=(第18報) 器質的インポテンスのプロスタグランディンE1による治療の試み
石井 延久渡辺 博幸入沢 千晶菊地 悦啓川村 俊三鈴木 騏一千葉 隆一常盤 峻士白井 将文
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1986 年 77 巻 6 号 p. 954-962

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抄録

従来より, 我々は器質的インポテンスの治療に陰茎プロステーシスの挿入手術を行っていた. しかし, 我国では陰茎プロステーシスの挿入手術を希望する患者は実際には余り多くないことから, 非観血的な方法が望まれていた. そこで我々は強力な血管平滑筋の弛緩作用を有する Prostaglandin E1 (PGE1) の陰茎海綿体注射が器質的インポテンスの治療に応用できるか否かを検討した.
方法は22~27Gの細い翼状針を用いて, 2~20mlの生理的食塩水に溶解したPGE1 20μgを注入し, その前後の変化を陰茎温度と Erectiometer で観察した. 動注は血管カテーテルを用いて生理的食塩水20mlに溶解したPGE1 20μgを注入した.
結果はPGE1を陰茎海綿体に注射した71例のうち, 51例 (72%) に完全勃起がみられた. のこる9例 (13%) は不完全な勃起, 6例 (8%) は陰茎の増大のみ, 5例 (7%) は全く変化がみられなかった. 完全勃起はPGE1注射後2~3分で陰茎の増大がおこり, 約2~3時間持続した. PGE1により殆ど勃起のおこらない症例は高齢者や陰茎海綿体の萎縮, 血管障害の疑われた症例に多くみられた. しかし, 骨盤内手術など末梢神経障害や脳・脊髄など中枢神経に器質的障害のある症例でも, PGE1の陰茎海綿体注射により, 性交可能な勃起がみられたことから, 今後はPGE1の器質的インポテンスへの治療に応用できることがわかった.
一方, PGE1の陰茎海綿体注射により完全勃起のおこらない骨盤骨折1例と糖尿症の2例の内陰部動脈造影を行ったところ, 骨盤骨折症例では内陰部動脈の損傷があり, 陰茎動脈は造影されなかった. この症例は血管性のインポテンスの合併があり, PGE1の内陰部動脈へ注入によっても陰茎の温度は余り上昇せず, 勃起も回復しなかった. しかし, 糖尿病の2例はいずれも陰茎動脈まで造影され, PGE1の動注により陰茎の温度の上昇がみられ, 一過性ではあるが勃起の回復がみられた. このことから, PGE1の動注が静注など投与方法を工夫することにより, 将来血管性インポテンスの治療に応用できるようになるのではないかと期待される.

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