1992年3月上旬,駿河湾口東部および同湾奥西部沿岸の2係留観測地点で,約5.5日間に約5.5℃に及ぶ顕著な水温急上昇が観測された。この水温急上昇は同湾沖の黒潮系暖水の流入による影響であり,さらに流入した暖水は同湾沿岸を反時計回りに伝播することが分った。両係留観測地点の水温急上昇の時間差と距離から求めた暖水の伝播速度は0.79m s-1である。この値は暖水の移動を沿岸密度流の先端部の速度(Kubokawa and Hanawa, 1984)と見なして計算した値0.93ms-1におおむね等しい。同様な現象は相模湾でも発生することが知られていて,それは急潮と呼ばれていることから,今回観測した水温急上昇は駿河湾の急潮と呼ぶことが出来る。また,今回の急潮をもたらした黒潮系暖水の流入の原因は黒潮の接岸であり,それには石廊崎沖での黒潮の小さな蛇行の発生が関係している可能性が考えられる。なお,同湾内各地の水位変動には急潮に伴う水温急上昇の効果はほとんど現れなかった。