日本野生動物医学会誌
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原著
アダックスにおける糞中のプロジェステロン含量測定による発情周期,妊娠および分娩後発情回帰の非侵襲的モニタリング
楠田 哲士長神 大忠西角 知也中川 大輔瀧田 豊治栗田 大資上道 幸史深井 正輝久保田 浩上田 かおる大江 智子奥田 和男浜 夏樹楠 比呂志土井 守
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2006 年 11 巻 1 号 p. 49-56

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抄録

雌雄アダックス(Addax nasomaculatus)の繁殖状態を非侵襲的にモニタリングするために,糞中の性ステロイドホルモン含量の測定を行い,それらの有効性を調べた。アダックスの雌3頭および雄1頭から糞と血液を採取し,雌のプロジェステロン(P_4)と雄のテストステロン(T)をエンザイムイムノアッセイ法により定量した。糞中P_4含量は,非妊娠期と妊娠期ともに血中P_4濃度と極めて類似した変動傾向を示し,両P_4値間に有意な正の相関(r=0.77, p<0.01)が認められた。しかし,雄の糞中T含量の動態は,血中T濃度の動態を反映していなかった。雄の雌に対する追尾,求愛およびマウントの一連の繁殖行動は,雌のP_4値が基底値の周辺時期に観察された。発情周期は,P_4の動態から平均28.4±0.4日間(n=5)であった。妊娠中の血中および糞中のP_4値は交尾後緩やかに上昇し続けた。糞中P_4含量は分娩約1週間前に最高値を示した後,急激に減少し,分娩3〜5日後には基底値となった。分娩後,雌1個体ではP_4値の動態から約2週間後に発情周期が回帰したが,別の1個体では分娩後約3か月間P_4値は基底値を維持し,その後の雄との同居直後に発情が回帰し受胎した。本研究により,アダックスの発情周期や卵巣活動の評価および妊娠診断や妊娠中のモニタリングに,糞中P_4含量の測定が有効であることが示された。

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© 2006 日本野生動物医学会
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