2016 年 122 巻 5 号 p. 173-191
愛知県足助南東部地域には領家変成岩類に巨大な伊奈川花崗閃緑岩体が貫入している.貫入部付近の伊奈川花崗閃緑岩のCHIMEモナズ石年代測定を実施したところ,以前に測定されていた別の地点の年代にほぼ一致し(83.3±1.3Ma),巨大な岩体はほぼ同時に固結したという解釈を支持する結果になった.伊奈川花崗閃緑岩体の南東側に分布する変成岩類を地質学的・岩石学的に調査した結果,(1)変成分帯の配列,(2)泥質岩中の紅柱石仮像中の柱状珪線石の出現分布,(3)ミグマタイトの分布,はいずれも伊奈川花崗閃緑岩に近いほど高温の変成作用を経験したことを示した.接触変成帯の水平幅は約8kmに達し,花崗岩からの垂直距離は約5kmに及ぶ.このような広大な接触変成帯が形成されたのは,伊奈川花崗閃緑岩体の熱容量が大きかったことに加えて,新期花崗岩類に関係するマグマ活動によって,中部地方領家帯における地温勾配が高くなっていたことが重要な要因であったと解釈した.