近年, Sj隸grenQや嚢胞性線維症などの全身疾患の診断の一助として外科的侵襲の比較的少ない小唾液腺の生検の有用性が認識されており, 主として口唇腺が用いられている。しかし, ヒト正常口唇腺の組織学的研究は少なく, とくに電顕レベルにおける詳細な観察はTandlerらの報告をみるにすぎない。
今回, 全身麻酔下で得られたヒト正常口唇腺5例を電顕的に検索し, 第1報として終末部を構成する腺房細胞と筋上皮細胞について報告する。電顕的に腺房の分泌細胞は全て粘液性細胞であり, 各成熟段階のものがみられたが, 漿液性のものは認められなかった。粘液性細胞には分泌穎粒の性状により2種類のものが存在すると考えられ, それをI型, II型の細胞とした。更に形態的に未成熟分泌細胞に類似するが胞体内小器官をほとんどもたない細胞, 筋上皮細胞に類似するが胞体内にはわずかのmicrofilamentのみが散在する細胞もみられ, 前者をIII型, 後者をIV型の細胞とした。筋上皮細胞は大体において他の唾液腺, 涙腺, 乳腺で報告されているものと同様の所見であった。
以上の所見に加え, I型, II型とした粘液性細胞, III型, IV型とした細胞ならびに筋上皮細胞の関連性についても若干の考察を加えた。