口腔病学会雑誌
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クラスプ用金属材料の機械的性質に関する研究
第1報鋳造クラスプ用市販合金の弾性的性質について
池田 弘一中沢 勇松田 浩一浜中 人士
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1974 年 41 巻 3 号 p. 233-246

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抄録

鋳造クラスプ用合金の弾性的性質を知るために, 市販鋳造クラスプ用合金のうち, それぞれタイプの異なる5種類を選び, 引張り試験を行い, 応力-ひずみ曲線を求めて, 比例限, ヤング率, 弾性エネルギー等の弾性的諸性質を調べた。引張り試験による応力-ひずみ曲線は, 従来差動トランスによる方法等で求められてきたが, この方法では, 標点間がすべり誤差が生じ易いこと, および小さな試験片では測定しにくいという欠点がある。本研究においては, ストレインゲージと動ひずみ測定器を用いて, 比較的簡単で正確な応力-ひずみ曲線を求めることができた。その結果, およそ次のような知見を得ることができた。まずヤング率については, コバルトクロムが最も高く, 14K, 金銀パラジウム, 白金加金の順である。応力-ひずみ曲線において, コバルトクロムは立ち上がりが急でヤング率は高いが, 比例限を越すと急に勾配が減少する。14Kもこれと似た傾向を示す。一方白金加金は立ち上がりの勾配は緩やかであるがほぼ直線的な増加を示し, 比例限を越えても勾配の急な減少はない。これらの点から, コバルトクロムはヤング率が高く, 硬さの点では他の合金よりも優れているが, 大きな変形を与えた場合には残留ひずみが大きいことが分り, これに対して, 白金加金はヤング率はコバルトクロムの約1/2であるが, 比例限が高く弾性エネルギーが大きい, すなわち, しなやかで腰が強いという点で優れているといえる。臨床的には, ヤング率の点からは, コバルトクロムについては, 白金加金の約1/2のアンダーカット量にしたり, 鉤腕の断面積を減少させるか, あるいは鉤腕を長くするといわれているが, 材料学的にはあまり検討されていない。クラスプの設計にあたっては, 硬さ, 引張強さ, 伸び以外に, ヤング率, 弾性エネルギー等の弾性的性質を考慮する必要があると考えられる。

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