2022 年 1 巻 2 号 p. 204-225
本稿は比較的新しい因果推論の方法であるQCAに着目し,その方法論的基礎をなす集合論とブール論理との関係を踏まえその世界観と登場背景を概観し,社会科学の研究における主流派としての統計的因果推論の方法との対比の上でQCAの前提とその因果推論の考え方についての整理を試みる。さらに,small-to-medium Nのコンテクストにおける事例指向の探索的方法として登場したQCAが経営学を含む社会科学諸領域に普及する中で多用途化し,そのバリエーションが生まれることでもたらされた可能性と潜在的な課題点について検討をおこなう。本稿後半では,経営学とその周辺領域における研究課題とQCAの親和性についての考察をおこない,実際にQCAを適用した研究を進める際の基本的な手続きと研究事例を通じた結果解釈と報告フォーマットを紹介する。最後に,流通・マーケティング研究におけるQCAの可能性を展望するとともに,研究課題と研究方法の選択・混合について若干の示唆を得ることを試みる。