2010 年 50 巻 6 号 p. 329-335
凝灰質砂岩である来待石と呼ばれる石材で造られた石塔が, その置かれている環境条件の違いによりどのように風化状況が異なっているかを, 京都妙心寺春光院において調査した. 調査項目は, 硬度値, 浸食量, 帯磁率, 色彩値の4項目である. ほぼ同時期に製作されたと見られる石塔群の中で, 当初から覆屋建物内に置かれたものは, 切り出したばかりの来待石に比べれば表面硬度は低下しているものの, 表面の物理的浸食はごくわずかに留められている. これに対し屋外で風雨にさらされてきたものでは, バラツキはあるが概して屋内のものよりは硬度が低く浸食が進行している傾向が認められる. これらの計測により, 覆屋建物の存在は, 風化の軽減に貢献することが示されたことになる. 帯磁率は屋外のものでは低下が見られるが, 屋内のものでは原岩値を上回る. 建物内でも扉の欠損した側に置かれた石塔では, 硬度の低下は顕著ではないものの表面には微生物が繁茂しており, 将来的には扉の有無が物性にも何らかの影響を与える可能性も否定できない. 色彩値は屋内・屋外ともに相互に類似した値で, 約400年間の風化時間では環境によらず既に色彩変化は飽和に達しているようである.