地理学評論 Ser. A
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北アルプス南西部,笠ヶ岳周辺の氷河・周氷河地形発達史
長谷川 裕彦
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1996 年 69 巻 2 号 p. 75-101

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抄録

北アルプス南西部の笠ヶ岳周辺地域には,氷河地形と周氷河性平滑斜面が広く分布する.氷河前進期と周氷河性平滑斜面形成期との時間的前後関係およびそれぞれの発達の程度から明らかになった当地域の最終氷期の氷河変動・周氷河環境変動は以下のとおりである.氷河前進期は,古いほうから順に笠ヶ岳I期~V期の5期に区分される.笠ヶ岳I期~IV期は,それぞれ最終氷期前半の亜氷期,後半の亜氷期の初期(2.5万年前),最終氷期極相期,晩氷期に対応し,笠ヶ岳V期はネオグレシエーションに対比される可能性がある.周氷河性平滑斜面形成期は,旧期1・旧期2・新期の3期に区分される.各時期の周氷河帯の下限高度は,旧期1が1,800m以下,旧期2が2,000m前後,新期が2,400m~2,500mである.それぞれの地形の分布状態,およびティル・周氷河性斜面物質・指標テフラ (AT) の層序から,旧期2は笠ヶ岳III期に,新期は笠ヶ岳IV期にそれぞれ対比でき,旧期1は笠ヶ岳I期から少し遅れた時期である.このことから最終氷期前半の亜氷期を笠ヶ岳Ia期(笠ヶ岳I期)と笠ヶ岳Ib期(旧期1)とに細分できた.

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