医療と社会
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特集論文
DPCデータを用いた効率性測定と病院機能評価に関する研究
河口 洋行橋本 英樹松田 晋哉
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2010 年 20 巻 1 号 p. 23-34

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抄録

本研究では,DPCデータを用いて生産物(output)をより精緻に捉えたうえで,Stochastic Frontier Analysis(確率的フロンティア分析,以下SFA)を用いた効率性測定を実施した。
具体的には,第一に生産物としての「患者数」にDPCデータから得られる相対係数で重み付けを行った。これまでの日本の先行研究では生産物として単純に患者数や退院数を用いていたため,より医療資源が必要な患者を多く取り扱う医療機関が効率性測定において不利になっていたが,このウエイト付けにより正確な生産関数を推定することが可能となる。
第二に,DPCデータから得られるHSMR(Hospital Standardized Mortality Ratio:期待死亡率と観測死亡率の比を取った比率)を品質変数として推定モデルに追加し,品質の制御を実施した。これまでの日本の先行研究では品質変数が利用できず,「医療サービスの品質は一定」という暗黙の前提条件を設定していた。もし,日本の病院に大きな品質のばらつきがある場合には,効率性の差が大きくなる可能性が考えられる。
併せて,サンプル病院の「観測されない異質性」(unobserved heterogeneity)を制御するためにGreene(2004,2005)のTrue Fixed Effect Model(以下,TFEM)を用いた。TFEMの特徴は,従来のSFAに病院毎のダミー変数を追加し,このダミー変数で固定効果を補足することによって,より正確な効率性推計を可能とした点である。さらに,この固定効果を示す数値は,病院の生産構造(或いは費用構造)の違いを反映すると考えられ,DPCデータの機能係数としての利用可能性があるかも知れない。
推定の結果,以下の2点が明らかになった。第一に,推定した効率性値は,約0.6と先行研究に比して低い水準となった。これは,本研究では,品質変数による制御が行われているためと考えられ,品質変数を除いたモデルでは効率性の平均値は0.74であった。第二に,病院毎の固定効果値のヒストグラムを見ると,0.9付近を峰とする分布になっていることがわかった。当該棒グラフを,その開設者が識別できるように,樹形図に変換したところ,明らかな分布の違いは認められなかった。

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© 2010 公益財団法人 医療科学研究所
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