日本耳鼻咽喉科学会会報
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総説
乳頭腫ウイルスをめぐる諸問題
喉頭乳頭腫
室野 重之
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2019 年 122 巻 2 号 p. 99-104

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抄録

 喉頭乳頭腫は, 多発・再発する病態から再発性呼吸器乳頭腫症と呼ばれることの多い, 難治性の疾患である. 低リスク型のヒトパピローマウイルス (HPV) である HPV6 や HPV11 が関連する腫瘍であるが, HPV は腫瘍近傍の正常に見える粘膜にも存在するとされ, その実態は HPV による慢性感染症的な側面を有する. HPV は粘膜上皮の傷から基底細胞に感染し, 細胞の分化とともに複製され, 表層細胞とともに剥がれ落ちるというライフサイクルを持つ.

 喉頭乳頭腫の治療の基本は手術であるが, 本疾患は粘膜上皮内にとどまる病変であることを認識し, 過度の瘢痕化などの後遺症を引き起こさないよう注意しなければならない. 一方, 難治性であるため補助療法を考慮することが多い. HPV の視点からアプローチする補助療法として, ウイルス複製の抑制, ウイルスシグナル伝達路にかかわる因子の阻害, HPV ワクチンが代表的である.

 ウイルス複製の抑制は抗ウイルス作用を有する核酸類似体の局所注入が欧米を中心に頻用されてきたが, 適応外使用の懸念もあり現在は使用しづらい状況である. ウイルスシグナル伝達路にかかわる因子の阻害では, 血管新生因子である VEGF に対する抗体のベバシズマブの有効性が指摘されている. また, 選択的シクロオキシゲナーゼ-2阻害薬であるセレコキシブの効果も期待されたが, 米国のクロスオーバー試験では否定的な結果であった.

 HPV ワクチンは子宮頸癌を主とする婦人科疾患の予防のために接種されるが, HPV6 と HPV11 をカバーする4価のワクチンにより, 長期的に喉頭乳頭腫の発症を減少させることが期待される. また, 活動性病変を有する症例への HPV ワクチン接種は, HPV の再感染を予防することにより, 再発率を低下させ, 手術間隔を延長する効果も示されている.

 HPV 感染症である喉頭乳頭腫の局所では, 腫瘍に対する免疫応答が低下していることも示唆されており, 免疫チェックポイント阻害薬など免疫系からのアプローチも期待される.

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© 2019 一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会
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