日本耳鼻咽喉科学会会報
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頭頸部癌における遺伝子座3p21, 9p21領域の欠失と予後との関係
松浦 一登志賀 清人横山 純吉舘田 勝中野 浩西條 茂高坂 知節
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1999 年 102 巻 5 号 p. 613-621

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抄録

近年の分子生物学・分子遺伝学の進歩により, 癌の発生・進展はDNAなど遺伝子レベルでの変異による癌遺伝子の活性化と癌抑制遺伝子の不活化との蓄積により生じてくるという考え方が支持されている. 特に癌抑制遺伝子の変異やその領域の染色体の欠失は腫瘍化, 腫瘍の悪性化, 癌の生物学的悪性度の増強に関与していると考えられており, 診断分野への応用が試みられている.
頭頸部癌においても種々の染色体欠失 (LOH: loss of heterozygosity) が調べられており, 9pの染色体欠失が最も頻度が高く, 3pの欠失もしばしば認められる. そこで今回我々はp16 (MTS1/CDK4I/CDKN2/INK4a), p15 (MTS2/INK4b) などの癌抑制遺伝子やIFNα遺伝子が存在する第9番染色体短腕9p21のLOHと, 上部消化管・呼吸上皮の扁平上皮癌に多く見られるとされる第3番染色体短腕3p21のLOHについて検討し, これらの染色体欠失が頭頸部癌患者の予後因子となりうるか検討を行った. 対象は頭頸部扁平上皮癌93例であり, 3p21領域のmicrosatellite markerであるD3S1067と9p21領域のmicrosatellite markerであるIFNA, D9S171を用いてPCR法にてLOHを検出した. 93例の内, informative caseは57症例であり, 27例 (47%) にLOHが認められたが, TNM分類などとの間には関連は認められなかった. しかし再発群ではLOH陽性例が有意に多く認められた. また他病死した5例を除いた52例についてカプラン・マイヤー法にて死因特異的5年生存率を求めたところLOH陽性例では有意に予後が悪かった. 3p, 9pのLOHは癌の悪性化に大きく関わっていると考えられ, これらのLOHは頭頸部癌における新しい予後因子として有用性が示唆された.

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