日本救急医学会雑誌
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原著論文
血管の透過性からみた敗血症に続発したALI/ARDS症例に対する好中球エラスターゼ阻害薬の効果
林下 浩士吉本 昭松浦 康司宮市 功典韓 正訓鍜冶 有登宮本 覚
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2007 年 18 巻 7 号 p. 283-290

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抄録

今回, 敗血症に続発したacute lung injuryまたはacute respiratory distress syndrome (ALI/ARDS) 症例に対して, 好中球エラスターゼ阻害薬 (sivelestat sodium hydrate) の投与が肺血管の透過性亢進を抑制するか否かを検討した。敗血症に続発したALI/ARDS生存22例のうち, Sivelestat投与群11例 (投与群) と非投与群11例について, 入室時 (0h), 24時間後 (24h) 及び48時間後 (48h) のPaO2/FiO2 ratio, SOFAスコア, PEEP値, 血清乳酸値, base excess値, 24時間ごとの体液バランス, 入室直後に挿入したPiCCO (pulse contour cardiac output) モニタリングシステムを用いて測定した肺血管外水分量係数 (EVLWI), 胸腔内血液容量係数 (ITBVI) 及び肺血管透過性係数 (PVPI) の推移を比較検討した。2群間に年齢, 性別, 感染巣 (肺もしくは肺外) の分布, SOFAスコア及びPaO2/FiO2 ratioに差は認められなかった。SOFAスコア, PaO2/FiO2 ratio, PEEP値及びbase excess値の推移では, 非投与群では変化が認められなかったが, 投与群では有意に改善していた。肺血管の透過性の指標となるPVPIの推移は, 投与群では0hと比較し48hで有意に (p<0.05) 改善傾向が認められた。0hから48hの体液バランスは, 投与群ではマイナスであるのに対して, 非投与群ではプラスであり, 非投与群で観察された体液貯留は投与群では改善していた。体液バランスがネガティブであった投与群の胸腔内血液容量の指標となるITBVIの推移では, 投与群では0hと比較し48hで有意に (p<0.05) 増加傾向が認められた。また, 投与群にのみEVLWIとPaO2/FiO2 ratioとの変化に相関関係が認められた。以上より非致死的敗血症に続発したALI/ARDS症例に対するSivelestatの投与は, 肺血管の透過性を抑制し酸素化能を改善させる可能性及び肺以外の血管透過性を抑制する可能性が考えられた。

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© 2007 日本救急医学会
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