1992 年 45 巻 1 号 p. 54-65
直腸癌患者に対して術前に60Gyの大量放射線照射を行い,その摘出標本の組織学的変化と局所再発防止効果について検討した.対象は下部直腸癌(腺癌)36例で,対照として非照射群39例を用いた.放射線療法は全骨盤腔に40Gy照射し,さらに原発巣に20Gy追加照射した.放射線療法完了後平均23日で手術を行った.原発巣の組織学的変化を残存した癌胞巣の変化をもとに分類すると,軽度5.9%,中等度41.2%,高度55%であった.組織学的変化は原発巣の表層よりも深部で顕著であり,その結果外科的剥離面から癌最深部までの距離を長く確保するのに有効と思われるものがあった.また照射により脈管侵襲陽性例は有意に減少し,リンパ節転移に対しても原発巣と同様の組織学的効果が認められ,局所再発率は非照射群23.1%に対し照射群では6.5%に低下した.以上のように直腸癌に対する大量(60Gy)の術前照射により各種の組織学的効果,局所再発の防止効果が認められた.