Tropics
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カナリ一諸島の照葉樹林:その生物多様性、歴史的利用と保護
Wolfredo Wildpret de la TorreVictoria Eugenia Martin Osorio
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1996 年 6 巻 4 号 p. 371-381

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抄録

カナリー諸島は7 つの島嶼からなる火山島で東側の島嶼はホットスポットに近く,西部の島嶼は起源が古く凡そ2000 万年前に遡る。年間70 %を占める北西風が中低部の山岳に吹き2000 m 以上では南の乾燥風が卓越していて,温度反転層で仕切られている。北西風は霧と雨を,南風は乾燥を齎す。従って斜面の方角と標高が雨量を決め,ひいては植生型を決定する。生物地理学的には地中海区系,カナリー亜区,カナリー上地方(東及び西カナリ一地方)として認識されている。
カナリー諸島の植物の殆どは固有植物で,新第三紀の中新世から鮮新世にかけて北アフリカやヨーロッパに分布していたことが知られているので, 「生きている古植物相」といわれている。その一部の植物は現在でもイベリア半島の多湿なコルクナラ林内で見ることができる。クスノキ科植物を主としたカナリー諸島の森林は, Pruno-Lauretalia azoricae ルシタニカバクチノキ - アゾーレスゲッケイジュ群目とAndoryalo-Ericetalia arboreae アンドリアラーエイジュ群目,いずれもルシタニカバクチノキーアゾーレスゲッケイジュ群綱に属し,多湿な800 m-1000 m の標高に出現する。記録されているLauro-Perseetoindicae sigmetum, Diplazio-Ocoteeto foetentis , Ilici canariensis-Ericeto platycodonis sigmetum,Faya-Ericetum arboreae の4 群集についてその分布を説明した。カナリー諸島に何時どこからどのようにして原住民(Guanche) が来たのか不明であるが, 15 世紀初頭カステイリア王国の支配下に入り, 15世紀にはサトウキビが導入され,照葉樹林の伐採が始まった。多くの作物が欧州大陸を通して入り、馬などの搬送動物の導入で森林の破壊が加速され,固有植物相が被食されることになった。裸地への外来植物(Eucalyptus, Cupressus, Pinus) による緑化が行われた。
1974 年にカナリ一保護地域に関する法律が成立し, 1981 年ゴメラ島のガラホナイ国立公園が誕生,カナリー諸島照葉樹林が保護されることになり, 1986 年には世界自然遺産に登録された。1993 年にはラパルマ島の谷部の照葉樹林がユネスコの生物園保存地域に指定され, 1987 年にはテネリフ工島のアナガ山地が田園公園に指定され,各々保護されることになった。アナガ山地田園公園はアナガ照葉樹林で代表され,亜熱帯種を含んでいる。この優れた自然を次の世代に引き継ぐために我々の努力が求められている。

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© 1996 日本熱帯生態学会
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