糖尿病血管合併症における血清脂質と血漿フィブリノーゲンの役割について検討した.
未治療糖尿病100例を対象として, 早朝空腹時にコレステロール・中性脂肪・遊離脂肪酸・フィブリノーゲンを測定した. また正常130例に同様の測定を行い対照とした. その結果, 糖尿病では正常者と比較して, 血清脂質とフィブリノーゲンは増加しており, 血清脂質の増加は統計的に有意であった.
血管合併症の種類によってフィブリノーゲン量をみると, 非合併症の糖尿病よりも, 網膜症, 腎症を有する細小血管障害の合併ではフィブリノーゲンは増加しており, 高血圧とか心電図に虚血性変化のある粥状硬化の合併例ではさらに増加しており, この増加は統計的に有意であった. そして, 細小血管症と粥状硬化の両者の血管障害をもつ糖尿病では, フィブリノーゲンの増加は, きわめて著明であった. このように糖尿病に血管合併症が加わると, フィブリノーゲンの増加が認められ, その増加の程度は血管合併症の種類や重症度とよく関連していた.
血清脂質と糖尿病血管合併症との関連をみると, 中性脂肪は細血管障害と粥状硬化の両者の合併する糖尿病でのみ, 有意の増加をみた. しかし, コレステロールは糖尿病では増加していたが, 血管合併症の有無や種類との関係はみられなかった. また遊離脂肪酸は, 糖尿病では増加していたが, 合併症の中でも細血管障害例では低下しており注目された. 以上糖尿病の血管合併症では, 血清脂質の増減よりも, むしろフィブリノーゲンの増加が密接に関係しており, 糖尿病の病態生理について興味ある結果であった. そして糖尿病でのフィブリノーゲンの測定は, 血清脂質の測定とならんで重要な検査であることをのべた.