日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
穿通枝系脳梗塞急性期の臨床病像
増悪因子解明の試み
寺井 敏
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1999 年 36 巻 11 号 p. 811-816

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抄録

軽度の麻痺で発症した穿通枝系脳梗塞例における発症後の臨床経過を観察するとともに, 入院後に神経症状の進行性増悪を呈した症例の誘因につき retrospective に解明を試みた.
発症後24時間以内に当院へ入院した脳主幹動脈に有意な狭窄性病変のない中大脳動脈穿通枝領域血栓性脳梗塞例のうち, 入院時の徒手筋力検査で麻痺側の上下肢筋力4/5の19例 (年齢44~73歳; 平均59.9±9.1歳) を対象とした. 次に, これらの症例を入院後も進行性に麻痺が増悪した症例 (増悪群) とそれ以外の症例 (非増悪群) に分類し, 両群間で血圧値の入院後の推移, 血液生化学的所見, 合併した背景因子 (高血圧, 糖尿病, 高脂血症, 心疾患) の頻度, 最終的に形成された梗塞巣の大きさの差につき検討した. また, 増悪群のうち, 一例では Diffusion-weighted MRI (DWI) を用いて急性期脳虚血病巣の発症後の変化について観察した.
対象とした19例中6例 (約32%) が増悪群に分類され, 麻痺のピークは平均第4病日 (3.7±1.0) にみられた. しかし, 増悪群, 非増悪群の間で, 年齢, 発症から入院までの時間, 血圧値の入院後の推移, 入院時血液生化学的所見, 各背景因子の頻度には, いずれも有意差は示されなかった. なお, 梗塞巣は増悪群で大きい傾向がみられ, 増悪群の一例ではDWIにより神経症状増悪にともなう虚血性脳細胞障害領域の伸展を認めた.
今回の検討では, 穿通枝系脳梗塞急性期の病状悪化に対する明らかな誘因は指摘しえなかった. しかし, 穿通枝動脈内での微小循環動態の悪化と神経症状の進行性増悪の相関が示唆された.

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