1996 年 33 巻 1 号 p. 22-26
社会的活動性と脳の老化の関係を明らかにする目的で, 社会的環境の異なる地域在住健常高齢者61名 (老人ホーム在住高齢者21名 (平均77.6歳), 地域在住老人会員40名 (平均76.7歳) を対象に, 老研式活動能力指標, 岡部式簡易知的尺度, Kohs' Block Design Test, Zung's self-rating Depression Scale (SDS), up & go 時間, 局所脳血流, 頭部MRI検査を施行し両群間の比較を行った. 結果: 高血圧などの脳卒中の危険因子については両群間に有意差を認めず, 脳MRI所見でも潜在性脳梗塞, 白質障害, 脳萎縮共に両群間で差を認めなかった. 全脳平均脳血流量も両群間で有意差を認めなかったが, 老研式活動能力指標では老人会群で有意に活動性が高かった. 岡部スコアおよび Kohs' IQは老人会群で有意に高値であった. また, SDSスコアが老人ホーム群で有意に高値であり, うつ状態の傾向にあることが示された. 運動能力に関する指標である up & go 時間は, 老人会群で有意に短かった. 結論: 脳卒中などの脳疾患既往のない健常高齢者において, 脳卒中の危険因子やMRI上の潜在性動脈硬化性脳病変に差がない場合, 社会的環境, ライフスタイルの差が脳の老化に対して大きな影響を与えていることが示唆された.