日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
痴呆性疾患における多モダリティ誘発電位
武田 正中立花 久大杉田 實
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1993 年 30 巻 12 号 p. 1058-1067

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抄録

電気生理学的立場より, 痴呆性疾患の病態を解明する目的で, Alzheimer 病 (AD), 痴呆を伴った Parkinson 病 (PD), Binswanger 病 (BD) および正常対照群の事象関連電位 (ERP), 体性感覚誘発電位 (SEP), 視覚誘発電位 (VEP) を測定した. ERPは聴覚刺激の oddball 課題を, SEPは正中神経への電気刺激を, VEPは図形反転刺激を用いて誘発した. その結果, (1) ERP: いずれの痴呆群でもN200, P300潜時の延長がみられAD群ではさらにP200潜時も延長していた. AD群でP300潜時と Mini-Mental State examination (MMSE) スコアとの間に相関関係を認めた. (2) SEP: AD, PD群でP40潜時, N13-P40, N20-P40が, BD群ではN20, N33, P40潜時, N13-N20, N13-N33, N13-P40, N20-P40が延長していた. また各痴呆群でN13-P40とMMSEスコアとの間に, AD, PD群でN20-P40とMMSEスコアとの間に有意な相関関係を認めた. (3) VEP: PD群のみでP100潜時の延長を認めた. (4) PD群ではERPのN200潜時とVEPのP100潜時との間に有意な相関関係を認め, P300潜時とP100潜時にもその傾向を認めた. BD群でN200潜時とN20-P40に有意な相関関係を認めた. ERPの結果よりN200, P300潜時は痴呆性疾患の認知機能障害の指標となりうると考えられた. SEPの結果より, 各痴呆群では上行性体性感覚伝導の障害がみられ, BDでは軸索伝導, シナプス伝導の障害が, AD, PDではシナプス伝導の障害が示唆された. VEPの結果より, 痴呆を伴うPDでは網膜より中枢の視覚路の障害が示唆された. 各種誘発電位とMMSEスコアの関係の検討より, N13-P40やN20-P40によって示される皮質機能障害が全般的知的機能障害に対応していたが, N200とP300潜時はより特異的な認知機能と関連していると考えられた. PDにおいては視覚刺激に対する大脳の反応性の低下は, N200, P300潜時延長によって示される認知機能障害とある程度並行すると思われた. 多モダリティ誘発電位の測定は痴呆性疾患群を鑑別する際の一助となると考えられる.

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