日本老年医学会雑誌
Print ISSN : 0300-9173
脳出血の生命予後に関する研究
一次判別関数による
岡田 文郎額田 忠篤杉谷 義憲山内 良紘高野 隆阿部 裕吉川 巌
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1973 年 10 巻 5 号 p. 314-320

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抄録

死亡率において最高位にある脳血管障害の予後, 特に生命予後を知ることは治療上からも重要なことである. 今日まで, ある程度経験的にある種の神経症状, たとえば意識障害, 発熱, 呼吸障害などが存在すると生命の危機があるといわれてきた. もちろん予後は病巣部位, 出血の広がり, 合併症などにより左右されるが, これらすべてを包含しての解析は不可能に近い. 本論文は, 脳出血発作当初の臨床症状, 臨床検査所見のうち比較的情報の得やすい項目を選び, そのなかから生死と関連深い項目を相関分析により抽出して, その項目をパラメーターとして脳出血発作後1ヵ月以内の生命予後に関する一次判別関数を導いたものである.
対象は大阪大学医学部第一内科および関連病院に入院の脳出血患者63名 (男44, 女19) でそのうち死亡例は19名 (男13, 女6) で平均年令は61才であった.
まず生命予後すなわち生存するか死亡するか, と関連があると一般に考えられる項目, すなわち年令, 意識障害, 嘔吐, 痙攣, 尿失禁, 瞳孔異常, 対光反射異常, 共同偏視, 病的反射, 呼吸障害, 尿蛋白, 尿糖, 脈拍, 体温, 収縮期および拡張期血圧, 血沈, 白血球数およびその分類のうち好中球比率の18項目をとりあげ症状については, 一度でもあれば“あり”とし0, 1式に数量化 (“あり”を1,“なし”を0) し, 連続量はそのままで, 生死との間で相関分析とX2検定を行なった.
計算の結果生死と相関の高かった項目は, 意識障害, 尿失禁, 瞳孔異常, 対光反射異常, 脈拍, 体温, 血圧, 白血球数で, このうち特に尿失禁, 脈拍, 体温は0.1%の危険率で有意という高い相関性を示した. 次にこのうちの8項目をパラメーターとして脳出血の生命予後を判定する一次判別関数を導いた. この式の正診率は, Internal Sample で88.9%, External Sample で83.9%であった. この式は医師の主観を除外し客観的に簡単な項目で生死を判別し得るものであると考える.

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