根の研究
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イネ科植物の根における過湿環境への形態的な応答・適応機構
山内 卓樹中園 幹生
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2015 年 24 巻 1 号 p. 23-35

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抄録

イネ科植物の根は,土壌中の酸素濃度が低下した過湿環境に応答して形態的に変化することで,茎葉部から根端部へと酸素を供給する機構をもつ.過湿環境への形態的な応答機構の1つとして,根の皮層特異的な細胞崩壊によって生じる空隙である通気組織の形成があげられる.通気組織は,植物体内において気体の通り道となり,茎葉部から根端部への酸素供給に貢献する. 過湿環境に応答した誘導的な通気組織形成は,気体状の植物ホルモンであるエチレンによって促されることが知られていたが,その形成に関わる遺伝子の同定は進められていなかった.著者らは,誘導的通気組織形成過程のトウモロコシの種子根を材料としたマイクロアレイ解析によって,活性酸素種の生成/ 除去に関わる遺伝子が皮層特異的に発現制御されることを明らかにした.これは,誘導的通気組織形成が皮層特異的な遺伝子発現の制御により蓄積した活性酸素種によって促されることを示唆している.過湿環境で新たに生じたイネ科植物の不定根は,好気的な環境で生じた不定根と比較して顕著に太い.最近,著者らは過湿環境を模した低酸素条件下で新たに生じたコムギの不定根では,皮層が特異的に肥大することを見出した.このことから,イネ科植物の根は過湿環境に応答して通気組織形成を誘導するだけではなく,皮層を発達させて通気組織形成が起こる‘場’を広げ,根に占める通気組織の面積を大きくすることで根端部へと効率的に酸素を供給する機構をもつことが想定される.本稿では,通気組織形成を中心にイネ科植物の過湿環境への形態的な応答・適応機構について,著者らの最近の研究成果をもとに議論する.

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© 2015 根研究学会
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