2010 年 25 巻 1 号 p. 13-22
Epithelial to mesenchymal transition(EMT)は通常密に結合している上皮細胞がその極性を失って遊走能が亢進し間葉系細胞の形質を獲得する現象であり,上皮由来の癌が転移する際にも認められる.我々は,BMPシグナルの膵癌細胞に対するEMT誘導機構とその臨床応用の可能性について検討した.その結果,BMP4は膵癌細胞のEMTを誘導しその過程に標的遺伝子であるMSX2が必須であった.また,MSX2それ自身が単独で膵癌のEMTを誘導し膵癌の転移を促進していた.さらに,ERCP時に採取した膵管擦過細胞におけるMSX2 mRNA量を測定すると,膵癌において慢性膵炎に比べ有意に高いことが確認された.以上のことから,膵癌の進展にEMTが重要な役割を果たしていること,並びにEMT誘導シグナルに関与する分子の発現量測定による臨床応用の可能性が示唆された.