NEUROSURGICAL EMERGENCY
Online ISSN : 2434-0561
Print ISSN : 1342-6214
繰り返し対側血腫を生じた小児重症頭部外傷の1例
—手術方針の検討—
菊池 麻美塩見 直人日野 明彦越後 整横矢 重臣橋本 洋一岡 英輝糟谷 英俊
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2019 年 24 巻 1 号 p. 49-54

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抄録

 頭部外傷による頭蓋内血腫に対する開頭術の際には,対側血腫の発生に注意する必要がある.術中に急激な脳腫脹が生じた場合,術直後に手術側と反対の瞳孔が散大した場合などは対側血腫が疑われ,時期を逸しない追加手術が必要となる.今回,右側の急性硬膜下血腫(acute subdural hematoma: ASDH)の開頭術後に左側の急性硬膜外血腫(acute epidural hematoma: AEDH)が生じ,左側の術後に右側の脳挫傷が生じて再度右側の開頭術を行った小児重症頭部外傷を経験した.

 患者は14歳女児,50 ccバイクで2人乗りをしていて車と衝突,Glasgow Coma Scale 6点(E1V2M3)で搬入された.瞳孔は右5 mm左2 mm,対光反射は両側とも消失していた.搬入後のCTで正中偏位を伴った右ASDHがみられた.救命救急センター初療室(以下初療室)において緊急穿頭血腫除去術を施行,引き続き初療室において開頭血腫除去術および外減圧術を施行,同時に頭蓋内圧(intracranial pressure: ICP)センサーを挿入した.術直後に左瞳孔が散大しており,CTで著明な正中偏位を伴った左AEDHを認めた.左AEDHに対し初療室でemergency burr holeを設け減圧を施行,引き続き手術室において開頭術を施行した.術直後に瞳孔を確認したところ右瞳孔が散大しており,CTで右前頭葉にあらたな外傷性脳内出血が顕在化していた.そのまま手術室に戻り,再度右側の開頭手術を施行した.

 術前からASDHの対側に骨折線が確認できる症例では,術中の減圧によりAEDHの増大が生じる可能性がある.今回の症例では,右のemergency burr hole作成後に脳腫脹を認めたため同側の開頭術に移行したが,対側に骨折がみられていたため脳腫脹は対側のAEDHが原因であった可能性もあった.したがって左側のemergency burr hole作成を優先することも選択肢の一つであったと考えられる.外傷性頭蓋内血腫の手術では術中の脳腫脹や術直後の瞳孔所見などを注意深く観察し,対側血腫の発生を念頭に置いた手術戦略が必要である.

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© 2019 日本脳神経外科救急学会
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