埼玉県立自然の博物館研究報告
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総説
関東内陸部における中期更新世の古植生及び古気候~約78万年前から12万年前~
楡井 尊
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2017 年 11 巻 p. 1-16

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抄録

関東内陸部の中期更新世の18地点における花粉化石と大型植物化石の記録について,海洋酸素同位体層序(MIS)との対比を検討するとともに,古植生と古気候の変遷を概観した. 最も下位のMIS 19(国本層相当層),MIS 17(柿ノ木台層相当層)は,コナラ亜属の多産で特徴づけられ暖温帯落葉広葉樹林が優勢だった.MIS 15(長南層相当層), MIS 13(笠森層相当層)はスギ属,ブナ属,ニレ属-ケヤキ属が多くなる一方でコナラ亜属は減少した.古植生は温帯針葉樹を伴う落葉広葉樹林に変化し,古気候はやや冷涼で湿潤となった.MIS 11(地蔵堂層相当層)はアカガシ亜属などの暖温帯常緑広葉樹を伴う落葉広葉樹林が優勢になった.古気候は最も温暖であった.MIS 9(藪層相当層), MIS 7(清川層相当層)ではブナ属を主体とする温帯落葉広葉樹林にトウヒ属の針葉樹林を伴うことが多くなった.化石種のヒメブナはMIS 11まで記録があるが,その後絶滅した.こうした古植生の変遷は,西日本での中期更新世の古植生・古気候変動の例(本郷2009)と同時期と考えられ,地球規模の気候変動を陸域の古植生が反映した結果であるといえる.

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