安達太良山沼ノ平火口では1996年頃から熱泥噴出など火山活動活発化の傾向が見られたが、地震活動には明瞭な変化がなかった。火山活動を捉えるために、沼ノ平火口付近で地磁気、GPS、重力、自然電位の観測を行った。地磁気観測では累積で最大110nTにおよぶ顕著な全磁力変化が観測された。観測された地磁気変化から、1997年から2000年頃までは火口底南東部の温度上昇による消磁が、2000年以降は火口底北東部の温度低下による帯磁が進行したことが推定された。GPSによる地殻変動観測からは、2000年頃まで火口付近の膨張と、その後の収縮が観測された。重力観測では観測点の標高変化の影響を評価できるように、重力観測点におけるGPS観測を並行して行った。2001年から2005年にかけて沼ノ平で重力の増加が観測され、その変化は観測点の標高変化で期待される変化よりも大きかった。火山活動に伴う地下水の変動を反映したものと推定される。自然電位連続観測では、銅・硫酸銅平衡電極によってキャリブレーションを行うことで長期的安定性を維持し、また観測点の地中温度を観測することで電極電位の温度補正をする手法を用いた。この手法によって、小規模な熱水活動によるとみられる変化を捉えた。実施したこれらの観測から、沼ノ平火口の火山活動は2000年頃まで比較的活発な状態であったが、その後低下したとみられる。観測された火山活動は熱水の動きに密接に結びついているとみられるため、深部から熱水の供給を受けたとき地下水の流れや温度分布がどのように変化するかを熱水シミュレーションで調べた。沼ノ平火口付近の地下の固有透過度をモデル化し、様々なケースについて計算を行った結果、地磁気観測から推定されるような温度変化を説明するには、南北2箇所の熱水供給源が必要であることが明らかになった。また、熱水シミュレーションの結果から、地磁気変化や重力変化を定量的に求めたところ、それらは観測と調和的だった。安達太良山のように地震観測で火山活動が捉えにくい火山では、地磁気、重力、自然電位、火口付近のGPS観測などの総合的な観測を熱水シミュレーションと組み合わせて用いることが、火山活動を包括的に把握する有力な手法である。