日本交通科学学会誌
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JTDBを用いた歩行者、自転車乗員の傷害発生に関する分析
伊藤 大輔水野 幸治齋藤 大蔵
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2016 年 15 巻 2 号 p. 36-49

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抄録

交通事故統計によると、我が国の交通事故死亡者の約半数が交通弱者(歩行者、自転車乗員)である。このことから、日本の交通安全を考えるうえで交通弱者対策が不可欠である。本研究では、日本外傷データバンク(JTDB)で収集された外傷データから日本の歩行者および自転車乗員の外傷の傾向を明らかにすることを目的とする。特に、歩行者事故および自転車乗車中の事故で頻発する頭部および下肢の外傷発生状況を年齢層別、性別に解析し、その特徴について工学的考察を加えつつ検討した。歩行者事故および自転車走行中の外傷データを0-14歳(子供群)、15-64歳(成人群)、65歳以上(高齢者群)の三群に分類し、さらにそれを男女別に分析した。歩行者および自転車乗車中の事故では、頭部外傷の発生頻度が高いことは従来の事故統計と同様の結果であったのに対し、下肢傷害では、これまで自動車側での保護対策が十分に行われてこなかった骨盤での損傷の発生頻度が高いことがわかった。自転車乗車中の事故では大腿骨骨折の占める割合が高くなり、事故状況の違いが受傷部位に影響を及ぼすことが示された。さらに、両事故形態ともに加齢に伴い出血性脳損傷の増加や大腿骨頸部での骨折割合の増加など、外傷の種類や発生箇所が変化することが明らかとなった。本研究は重症度の高い外傷データで構成されるJTDBを用いた分析であり、事故実態の全体像を描写できていない。しかし、本研究の成果は、交通弱者が受傷しやすい部位やその加齢による変化の傾向を示しており、今後の交通事故における交通弱者対策にとって有益な知見である。

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© 2016 一般社団法人 日本交通科学学会
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