本研究では,発話と共に生じる自発的身振りの機能を明らかにするため,幼児の説明場面において産出された発話と身振りを検討した。特に,マクニール(McNeill)の成長点理論に依拠し,文脈との対比に基づいて作られる身振りが,発話生成にどのように寄与しているのかを事例をもとに吟味した。その結果,幼児期の子どもは,複数の行為が関与する事物を語る場合,しばしば自分の意図とは反する表現をしたり,出来事の中心的情報から語り始めたりすることが明らかになった。こうした語りにおいて,身振りの産出自体が,出来事を正しく,生起順に表現するための手がかりを話者に与えていることが示唆され,これまで見過ごされてきた身振りの 2 つの機能,すなわち視覚的フィードバック機能と文脈創造機能を指摘することができた。視覚的フィードバック機能とは,身振りの可視的性質が話者自身にとって表現の生成や修復のリソースとして利用されることを指し,文脈創造機能とは,身振り自体が一つの対比的な文脈を作り出すことをいう。これらの身振りの機能が,文の構築に寄与していること,また身振りが発話構造の発達を捉える有効な指標になることが示唆された。