日本花粉学会会誌
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鉛-210・セシウム-137法による年代測定ならびに花粉分析に基づく朱鞠内湖集水域における過去50年間の植生復元
佐々木 尚子吉岡 崇仁小川 安紀子勝山 正則日野 修次高原 光
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2010 年 56 巻 1 号 p. 31-43

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抄録

北海道北部に位置する国内最大の人工湖である朱鞠内湖の堆積物について,Pb-210法ならびにCs-137法によって年代測定をおこない,花粉分析により過去の植生を復元した.年代測定の結果,湖央部で採取されたSt.2堆積物の深度12cm以浅については,1960年代以降の堆積物であることが明らかになった.堆積速度は,3.15mm year^<-1>(Pb-210法)ならびに3,0mm year^<-1>(Cs-137法)と推定された.これは琵琶湖や木崎湖の約1.5倍,諏訪湖の1/4程度の速度に相当する.Pb-210法による年代測定結果に基づく,1960年代以降の推定年間花粉堆積量は1.7×10^4〜2.9×10^4 grains cm^<-2> year^<-1>であり,大きな変動はみられなかった.朱鞠内湖に流入する河川の河口付近で採取した湖底堆積物表層の花粉組成と河川流域の植生被覆との間に明瞭な対応関係はみられなかった.一方,湖央部の湖底堆積物中の花粉組成は,集水域全体の植生とよく対応し,湖内に供給された花粉が湖水循環などを通じて平均化されたために,集水域全体の平均的な植生を反映しているものと考えられた.このような地点間の違いは,ダム湖の複雑な地形環境に起因する可能性がある.湖央部(St.2)の堆積物では,全層準を通じてコナラ亜属,カバノキ属,ハンノキ属が多く,これにモミ属,トウヒ属などの針葉樹花粉と,イネ科などの草本花粉をともなっていた.深度による変化はほとんどみられなかった.このことから,過去50年間には,集水域全体としては植生の構成に大きな変化はなく,現在みられるような針広混交林を主とする植生が広がっていたと考えられた.

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© 2010 日本花粉学会
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