日本金属学会誌
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特集「固体中の水素と材料特性Ⅳ」
特集「固体中の水素と材料特性Ⅳ」によせて
市川 貴之宮岡 裕樹日野 実堀川 敬太郎金谷 輝人
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2020 年 84 巻 3 号 p. 67

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抄録

東京オリンピック・パラリンピックの開催を目前に,水素社会実現に向けた機運がますます高まっている.水素エネルギーは,再生可能エネルギー利用時の中長期の変動を吸収するエネルギー貯蔵媒体として,あるいは,再生可能エネルギーの大陸間輸送媒体(エネルギーキャリア)として,さらには様々な一次エネルギーから製造可能な水素燃料電池自動車の燃料として期待されている「二次エネルギー」であり,今もなお様々な形態での貯蔵輸送方法が模索され研究開発が進められている.現時点で,水素燃料電池自動車に70 MPaの高圧水素充填を行うことができる水素ステーションは,国内においてのべで100カ所を大きく超え,2017年に発表された「水素基本戦略」掲載の目標に向かって着実に前進している.

一方,水素は元素の中で最も小さいため,材料中での水素原子の高い移動度とともに配置のエントロピーを獲得することを根拠にして,様々な金属材料に固溶する性質を持っている.こうした微量の固溶水素あるいは材料中の欠陥にトラップされた水素は,いわゆる水素脆化という現象を引き起こすことが知られている.環境問題の観点も含め,構造材料に対して軽量化や高強度化が求められる中,水素脆化のメカニズムに迫る研究は構造材料の更なる高性能化に必要不可欠であると考えられている.

こうした中,2013年12号での特集「固体中の水素と材料特性」および,これに続く2015年3号での特集「固体中の水素と材料特性Ⅱ」,さらには2016年12号での特集「固体中の水素と材料特性Ⅲ」では,種々の水素貯蔵材料の特性や反応機構に着目した論文や,構造材中に固溶した水素の存在状態に着目した論文が数多く寄せられ,合計30報以上の論文投稿があり好評をいただいた.今回も,水素吸蔵合金関連で1報,構造材料関連で6報,合計7報の論文投稿を受け,4回目の特集号として掲載できることになった.環境問題およびエネルギー問題の同時解決に向けて,水素のエネルギーとしての利用技術の確立,さらには水素脆化のメカニズム解明を通した構造材料の高性能化がますます強く求められている中,本特集での記事がこれらの発展の一助となることを強く祈念して,冒頭の言葉とさせていただきたい.

最後に,本特集号の発刊に際し,本企画の趣旨に御賛同頂き,興味深い論文をご投稿頂いた著者の方々,また厳正な査読を賜りました査読者,さらには一連の校閲と編集作業に際しきめ細かく対応して下さいました編集スタッフの方々に,厚く御礼を申し上げます.

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