ウイルス
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特集
不活化センダイウイルス粒子を用いた抗腫瘍免疫療法の展開
黒岡 正之金田 安史
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2007 年 57 巻 1 号 p. 19-27

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抄録

 紫外線により不活化され,複製能力をなくしたセンダイウイルス粒子[hemagglutinating virus of Japan envelope (HVJ-E)]は安全な遺伝子治療用ベクターとして開発されてきた.最近,我々の研究でこのHVJ-Eそのものが強い抗腫瘍効果をもつことが明らかとなった.HVJ-Eをマウスの腫瘍内に注射すると,60%から80%の腫瘍が完全に消失し,残りの腫瘍も著しく増殖を抑制された.重度免疫不全(Scid)マウスに同腫瘍を移植した実験では,この効果はほぼなくなったため,宿主の抗腫瘍免疫の賦活化が主な機序であると推測された.In vitroでは,HVJ-Eは生きたHVJ(live HVJ)と同程度にマウスやヒトの樹状細胞を成熟化させた.またHVJ-E刺激により樹状細胞から分泌されるサイトカインの多くは,live HVJによる刺激に較べ有意に減弱したが,IL-6だけは同程度の分泌量を保持し,特徴的であった.定量的RT-PCRや免疫組織染色の結果より,HVJ-Eの腫瘍内投与により樹状細胞,CD4+T細胞,CD8+T細胞の著明な腫瘍内浸潤を認め,さらに腫瘍特異的細胞傷害性T細胞(CTL)の誘導が確認された.またHVJ-EはFoxp3+CD4+CD25+制御性T細胞(Treg)を抑制する作用を有することがわかり,樹状細胞から分泌されるIL-6がこの作用の中心であることもわかった.HVJ-Eによる樹状細胞からのIL-6分泌やTregの抑制はマウス生体内でも確認され,IL-6シグナルの阻害によりHVJ-Eの抗腫瘍効果も有意に減弱した.以上よりHVJ-Eは獲得免疫系のエフェクター細胞を賦活化すると同時にTregによる免疫寛容状態の成立を阻止する強力な免疫療法剤であることがわかった.また,対象とするがんの種類によっては,HVJ-Eによるがん細胞直接傷害作用やNK細胞活性化による抗腫瘍効果も期待できることがわかってきており,今後,新しいがん免疫療法剤として大いに期待できると考えられる.

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© 2007 日本ウイルス学会
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