目的: 本研究の目的は, 咀嚼運動に引き続く自発的な嚥下の際の顎筋, 舌骨筋群の時系列的な活動様相を明らかにすることである.
方法: 被験者は, 成人有歯顎者9名とした. 被験食品には, 直径, ゼリー強度, ゾル粘度を一定に調製した球状寒天を用いた. 被験者には, 習慣性咀嚼側での咀嚼を指示し, 食品摂取から自発的な嚥下終了まで, いずれも両側の咬筋, 側頭筋前部, 舌骨上筋群, 舌骨下筋群の筋活動と下顎運動, 喉頭運動を同時記録した.
結果: 咀嚼運動に引き続く自発的な嚥下に際し, 咀嚼時とは異なる開閉ロストロークが観察され, この時期に舌骨上筋群, 舌骨下筋群に第1の活動が認められ, 舌骨上筋群, 舌骨下筋群の順に活動を開始し, ほぼ同時に活動が静止した. 次いで, 閉口動作に伴って咬筋, 側頭筋前部が活動を開始し, 遅れて舌骨上筋群, 舌骨下筋群が第2の活動を開始し, 咬筋, 側頭筋前部, 舌骨上筋群が静止した後, 遅れて舌骨下筋群が静止した. この間, 下顎は閉口位を保持し, 2峰性の喉頭運動波形が観察された. 舌骨上筋群, 舌骨下筋群の第1活動期はtransport stroke, 咬筋, 側頭筋前部の活動期および舌骨上筋群, 舌骨下筋群の第2活動期は下顎の固定, 口腔送り込み期, 嚥下咽頭期が形成されていると推察された.
結論: 本実験の結果から, 咀嚼から自発的な嚥下に至る過程において顎筋, 舌骨筋群は時系列的に一定の協調活動を行っていることが明らかとなった.