症例は32歳女性.下痢,発熱,肝障害を主訴に当科に入院した. A型肝炎IgM抗体, HCV抗体, B型肝炎マーカーは陰性であった.便培養で病原菌は検出されなかった.第9病日の大腸内視鏡で直腸から左側結腸の粘膜は連続性びまん性に浮腫状で多発性のびらんと小潰瘍が認められた.大腸粘膜生検組織と第10病日の血液からPCR法でサイトメガロウイルス(CMV) DNAが検出された.血清CMV-IgG抗体が低力価, IgM抗体が高力価であった.抗ウイルス療法なしで症状は徐々に改善した.第24病日の大腸内視鏡は正常粘膜を呈し,入院1カ月後には無症状となった.臓器,骨髄移植後, AIDS, 悪性腫瘍患者などの免疫不全患者ではCMV腸炎は頻度が高く,死亡率も高いことから見逃されることは少ない.免疫機能正常の患者のCMV腸炎の報告は少ないが,基礎疾患のない成人女性においてself-limittingなCMV腸炎を経験した.免疫機能正常患者においても(亜)急性大腸炎の鑑別診断にCMV腸炎をあげる必要があると考えた.