2012 年 61 巻 12 号 p. 1033-1040
はんだ中の鉛及びスズの溶出機構を明らかにすることで,環境に対するはんだの負荷を検討するため,エレクトロスプレーイオン化質量分析法(ESI-MS)を用いて化学種別分析を行った.まず,固体試薬から調製した鉛・スズ溶液を比較試料とし,単純な酸溶液中の鉛・スズ化学種を同定した.硝酸・塩酸中の鉛化学種は,主に水酸化物イオンと結合した形で検出された.これは,鉛イオンは溶液中に大量に存在するNO3-及びCl-とは結合せず,主に水酸化物錯体もしくは水和錯体の形で存在することを示していた.一方で,スズの場合は,塩化物錯体の形で主に検出された.次にはんだを酸に溶解させ,その溶出液をESI-MSで測定した.その結果,溶出した鉛は主に水酸化物錯体の形で検出された.一方,溶出液中のスズ濃度は比較試料よりも高かったのにもかかわらず,ESI-MSで明瞭なピークとして観測されなかった.そのため,溶出液中のスズはイオン化しておらず無電荷で存在し,ESI-MSで検出されにくい化学形態であると示唆された.以上の実験結果より,化学種の観点からはんだ中の鉛及びスズの溶出機構を推測し,溶出した鉛及びスズの環境への影響を考察した.