神経系の発達および成熟に障害を持つ神経発達症の中には,意味記憶の形成不全と形容すべき病態や,意味記憶を十分に活用できていないと思われる病態が存在する.神経発達症の一つである自閉スペクトラム症(ASD)では,対象と音韻を正しく結びつけられない意味記憶の形成の問題と,言外の意味が取れず字義通りの解釈をしてしまう意味記憶の活用の問題が観察される.ASD研究にもsymbolや表象など意味記憶と類似した概念があり,ASDに特徴的な認知機能障害との関連が示されてきた.子どもの発達過程や神経発達症は意味記憶について多くの視点を提供し,また意味記憶という視点から心の発達や神経発達症を観察および研究することは有用と考えられる.