日本生態学会誌
Online ISSN : 2424-127X
Print ISSN : 0021-5007
ISSN-L : 0021-5007
特集 生物のクローン性:クローン増殖による分散と局所環境変化への応答からその有効性を考える
雌雄がクローン繁殖を行なうウメマツアリのコロニー分布と遺伝構造
大河原 恭祐 飯島 悠紀子吉村 瞳大内 幸角谷 竜一
著者情報
ジャーナル フリー

2017 年 67 巻 2 号 p. 123-132

詳細
抄録

社会性昆虫であるアリには分巣と呼ばれるコロニー創設法があり、それに基づき複数の女王と複数の巣からなる多女王多巣性のコロニーが形成される。一部の多巣性の種では、コロニーが拡大してもメンバー間の遺伝的均一性が維持され、巣間では敵対行動が起きない。それによって種内競争を緩和し、コロニーを拡大できるとされている。これらの事は遺伝的に均一性の高い集団の形成はアリでも資源の占有や種間競争に有利であることを示唆している。本研究では多女王多巣性で、クローン繁殖によって繁殖虫を生産するウメマツアリVollenhovia emeryi についてコロニー形態や遺伝構造を調べ、その繁殖様式と多女王多巣性の発達との関連を調べた。さらにこうした繁殖機構をもつウメマツアリがアリ群集内の種間競争で有利に働き、優占的に成育できているかを、他種とのコロニー分布を比較することによって推定した。金沢市下安原町海岸林でのコドラートセンサスによる営巣頻度調査と巣間のワーカー対戦実験により、調査区内には8 個の多巣性コロニーがあると推定された。さらにそのうちの主要な6 個のコロニー(S1 ~ S6)について、女王とワーカーを採集し、その遺伝子型をマイクロサテライト法で特定した。4 つの遺伝子座について解析を行ったとこ ろ、女王には19 個のクローン系統が確認され、1 つのコロニーに2 ~ 5 個の系統が含まれていた。また各コロニーのワーカーの遺伝的多様性は高かったが、コロニー間での遺伝的分化は低く、6 個のコロニーの遺伝的構成は類似していた。このような遺伝的差異の少ないコロニー群は、越冬前に起きる巣の再融合によってコロニー間で女王やワーカーが混ざるために起きると考えられる。さらに類似した生態ニッチを持つ腐倒木営巣性のアリ群集でウメマツアリの優占性を調べたところ、営巣種14 種の中でウメマツアリは高密度で営巣しており、比較的優占していた。しかし、ウメマツアリによる他種の排除や成育地の占有は見られず、ウメマツアリは微細な営巣場所を利用することによって他種との住みわけを行っていた。これらのことからウメマツアリのコロニー形態や遺伝構造には、他の多女王多巣性種とは異なる意義があると考えられる。

著者関連情報
© 2017 一般社団法人 日本生態学会
前の記事 次の記事
feedback
Top