日本火山学会講演予稿集
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A58 火砕流熱風部の運動機構とその数値シミュレーション手法
石川 芳治山田 孝井戸 清雄
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p. 58-

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抄録

火砕流熱風部は本体部と同様に高温・高速であり、流路の屈曲部では本体部から遊離し、単独で流下する特性を持つため、本体部よりも広範囲に壊滅的な被害をもたらす危険が多い。その運動メカニズムについては、ほとんど明らかにされておらず、防災対策上の問題点は山積している。本研究では、熱風部の形成・発達は本体部から供給される鉛直方向の上昇気流に支配されるとして、本体部の速度、土砂濃度に応じて上昇気流の速度が決定される運動モデルを考察した。その基本的な考え方は以下のようである。(1)熱風部への熱風の供給は、本体部から鉛直方向に成される。(2)熱風部の構成材料である火山灰や細粒礫などの火砕物は熱風の中に均一に分布しているものとし、その濃度変化は一定と仮定する。(3)熱風部は密度が一定であり、非圧縮性流体とする。(4)熱風部の抵抗則は、流速の二乗に比例する抵抗を受けるものと仮定する。熱風部と周辺空気との粘性抵抗もこの抵抗則を用いる。次いで、このモデルと既に提案されている本体部のモデル^<1)>を用いて、熱風部を簡単のために平面二次元流れとして取り扱った場合のその流下・堆積範囲について、運動方程式と連続式、土砂濃度式を連立させこれらを陽形式の差分式によって解くことによって、数値シミュレーション計算を行った。但し、運動中の熱風部に含まれる微細粒子は、最終的には熱風部の堆積区域に均一に沈降・堆積すると仮定している。その結果、本体部に沿う熱風部の流れの状況はある程度再現できることが確かめられた。但し、熱風部が本体部から遊離した後に単独で逆勾配区間をかけ登る状況についてはかならずしも再現性はよくない。これは、今回のモデルでは、熱風部がある差分メッシュから隣接したメッシュに移動したとき、水の流れと同様に底部から徐々に上昇していくような二次元的なものとなっていること、実際の熱風部の流れは三次元的であり、ある地点で下部には到達していないが上部には到達していることが有り得るのに対し、本モデルにはこのような三次元的要素が取り込まれていないことなどによるものと考えられる。今後、火砕流の運動状況を撮影した映像の解析や火砕流の堆積物調査、温度、濃度分布、風速などの現地観測などからできるだけ多くの運動特性に関する情報を収集し、それらを基に本体部ならびに熱風部の運動メカニズム解明と精度の高い数値シミュレーション手法を開発することが重要となる。

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© 1993 特定非営利活動法人日本火山学会
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