日本作物学会紀事
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栽培
北部九州における気象条件との関係に基づいたコムギの収量向上の方策
西尾 善太内川 修西岡 廣泰杉田 知彦岡見 翠松中 仁塔野岡 卓司中村 和弘
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2017 年 86 巻 2 号 p. 139-150

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抄録

北部九州のコムギ収量について,2000~2014年の旬別の平均気温,降水量,日照時間との関係を解析した.標準播種期である11月20日に播種したコムギ収量に対する気象条件の影響は,①分げつ始期の12月中旬の降水量との負の相関,②分げつ前期の1月上旬の気温との正の相関,③頂端小穂形成期の2月下旬の気温との負の相関,④登熟期後半の5月中旬の気温との負の相関により生じていた.平均収量の低い市町の収量は,12月中旬の降水量および5月中旬の気温と強い負の相関を示し,分げつ始期の土壌過湿条件に加えて,登熟後期の高温が減収を引き起こすとみられた.一方,1月上旬の高温により穂数が増加して幼穂形成始期が早まり,出穂期までの幼穂形成期間が確保され増収を示した.従って北部九州のコムギの収量向上には,①分げつ始期の多雨による穂数減少を防ぐため播種前から排水対策を徹底すること,②凍霜害を回避する播種早限の11月5~10日頃以降に播種を前進し幼穂形成始期を早めること,③登熟後期の高温による減収を防ぐため生育期間全体を通した排水対策と追肥により植物体の活性を維持することが重要であると考えられた.さらなる収量向上には,これまで改良を進めてきた登熟期の雨害耐性(穂発芽や雨濡れによる粒色の溶脱)に加えて,幼穂形成を安定して早めるため秋播き性に依らない凍霜害耐性の改良,着粒数を増加させるコムギVrs1遺伝子の利用,生育初期の多雨と登熟期後半の高温の両方に対する耐性の付与が必要であると考えられる.

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