日本作物学会紀事
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収量予測・情報処理・環境
気温上昇がダイズの開花結莢, 乾物生産と子実収量におよぼす影響
大江 和泉上郷 玲子城 さやか倉橋 崇之齊藤 邦行黒田 俊郎
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2007 年 76 巻 3 号 p. 433-444

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抄録

圃場条件下において播種から収穫までの長期間にわたる気温上昇処理がダイズの生育収量, 乾物生産におよぼす影響を温度勾配チャンバー(TGC)を用いて検討した. 実験は, ダイズ品種エンレイを用い, 2002年~2004年の3ヵ年にわたって行った. 試験区はチャンバー内に生じた温度勾配に沿って, 開口部から閉口部に向けて, E1, E2, E3, E4の4区を配置し, E1を対照区, E2~E4を高温区とした. E4の平均気温はE1に比べて2002年と2003年では1.0℃, 2004年は1.6℃上昇した. 最高気温はE1に比べてE4では2002年と2003年には2.0℃, 2004年は3.4℃上昇した. 2002年, 2003年のm2当り総節数は高温区で増加する傾向を示し, これには2002年では椏枝, 2003年では分枝節数の増加が関係した. 3ヵ年の開花期間は, E1に比べて2002年ではE2, E4がそれぞれ1日, 3日, 2004年ではE4が2日短くなった. 2002年, 2004年の個体当り総花蕾数は, E1に比べて高温区で18.7~31.0%減少し, これには両年を通して高次位花房の花蕾数減少が関係していた. 粒肥大終期の全乾物重は2002年, 2003年では高温区で大きく, E3が最大値をとりE4ではE3よりも小さくなった. 2004年の全乾物重は気温が上昇するほど小さくなり, E4で最も小さくなった. 最上位展開葉の個葉光合成速度の老化に伴う推移には区間で明確な差異は認められなかった. 3ヵ年のE1のm2当たり子実収量は2003年(518.0g)>2004年(424.6g)>2002年(303.4g)の順となり, 2003年で最も高くなった. 3ヵ年の子実収量は全乾物重とほぼ同様の傾向を示し, 中庸な年であった2002年および低温年であった2003年ではE3で最も高くなった. 高温年であった2004年の子実収量は, 気温が上昇するほど低くなり, E4で最低となった. 高温年における子実収量の低下には花蕾数, 莢数の減少が関係していた. 登熟期平均気温と子実収量の関係は年次によって異なり, 27~31℃の範囲では子実生産に有利に働くものの, これ以上の気温上昇は子実収量を制限する要因となると推察された.

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© 2007 日本作物学会
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