抄録
小惑星探査機「はやぶさ」に搭載した蛍光X線スペクトロメータ(XRS)の初期運用の結果と現状、今後の観測運用計画についての概要を紹介する。 XRSは、大気の無い惑星表面上の主要元素組成(Mg,Al,Si,S,Ca,Fe等)を定量的に決定するために、太陽X線の照射によって励起される元素に固有なエネルギーをもつX線(蛍光X線)を観測する装置である。XRSは「はやぶさ」に搭載され、地球近傍小惑星でS型のItokawa(1998SF36) を高度数キロメートルから常時観測する。S型小惑星の構成元素を精度よく決定し、どの種類の隕石と関連が深く、またどの程度の表面進化・熱的分化の過程を経ているかを調べる情報にする。 「はやぶさ」は小惑星到着まで約2年かかるため、その間を利用して初期動作確認や熱モデル評価、センサとして採用した電荷結合素子(CCD)の放射線劣化状態を適宜調べる。打上に際しては問題なく、想定通りの振舞いを示した。さらに、センサ較正や科学観測として、活動銀河核や超新星残骸、宇宙背景X線の観測を行う。現在までに複数天体の観測を行ったが、Arai et al. (2003)で報告する。また、太陽活動モニタ用に標準試料を搭載しており、太陽X線による蛍光X線測定の宇宙実証とその解析法の評価・検討を行うが、Yamamoto et al. (2003)で紹介する。搭載コンピュータSH-OBCの宇宙実証も同時に重要な役割であり、現在までに約20日間にわたり正常に動作している。